もう一度貴女とともに生きられるのなら、私はなんだってしよう。
もう一度その声を聞き、もう一度その手を取って、もう一度貴女の後ろに立てるのなら、私はなんだってしよう。
もう一度その声を聞き、もう一度その手を取って、もう一度貴女の後ろに立てるのなら、私はなんだってしよう。
「ここは…?」
気が付くと私は草原の中に立っていた。
周囲は森に囲まれている。
私のまわりだけがぽっかりと開けて草原になっていた。
遠く、丘になった草原の切れ端の向こうは真っ青な空が見えていて、その中央にぽつりと木が一本木陰を作っていた。
先ほどまで、暗い部屋の中にいたはずなのにどうしてこんな場所にいるのだろう。
私はまわりを見回しながら、ゆっくりと歩みを進めた。
辺りには誰もいない。
ただただ、爽やかな風が吹き抜けて、草木が擦れる音がするだけだ。
草原の中ほどまで歩いて行った時だった。
ふと、木陰の下に、見覚えのある後ろ姿があるのに気が付く。
金色の長い髪と白い衣装が風に揺れている。
私の足音に気が付いたのだろうか、くるりと振り返って、髪がふわりと浮いた。
「…来ちゃったんだ」
振り返った少女は、傍らの木の幹に手を置いて笑った。
どこか悲し気な顔で。
「ヒカリ…久しぶりね」
かつてともに旅した少女。その姿からは想像もつかないほどの力を持った、天の聖杯と呼ばれた伝説のブレイド。
しかし、彼女とは数十年も前に顔をあわせたきりだった。
彼女のドライバーであるレックス、彼女と同じく天の聖杯のホムラとともに新大陸へ冒険へ出るその日、かつての仲間たちと見送ったきりだった。
戻ってきたという知らせも聞いていない。
それなのに、私の目の前に立っている。
いや、私が彼女の目の前に立っていると言った方が正しいのだろうか?
「ねえ、ヒカリ。ここはなんなの?」
「楽園よ…私たちの記憶の中にある方の」
「ここが…」
かつてレックスが見せられた楽園がこれなのか。これを見たら信じない訳にはいかないか。
「でも…どうして私が」
当たり前の疑問が沸き起こる。
天の聖杯にも、天の聖杯の武器にも触れていないのに、どうして私がここにいるのだろう。
「ブレイドはみんな、私たち天の聖杯に記憶を送るんだもの。理論的には私たちの記憶にアクセスすることだって可能よ」
「そういう、ものなのかしら」
そういえば、クラウスという男がそんな話をしていたっけ。
それを思い出したら、嫌なものを見せられたことも思いだしてしまった。
憎悪、怒り、憎しみ、妬み。
そんなものをぶつけられて、ただただ痛かった。
そして思いだしてしまう。嫌な記憶は嫌な記憶を呼び起こすらしい。
私の大切なあの人が苦しむ姿を。どうにもできないつらさを。
傍にいられなかった後悔を。
帝国の宝珠と呼ばれた私は、ブレイドでありながら要人として単独で職務につくこともあった。
一心同体であるあの人が高齢ゆえの病で倒れても、ブレイドである私の身は昔と変わらない。
ブレイドとはそういうものだ。それゆえに、私に職務がまわされた。
全てではない。私が外交に出ているときにあの人が死んでしまえばいろいろ問題もあるから。
それでも、傍にいたくてもいられなかった。
どうしてもっと、傍にいなかったんだろう。
どうしてもっと、わがままを言わなかったんだろう。
後悔ばかりが頭を支配して、あったはずの楽しい思い出は何一つ浮かんでこない。
「…大丈夫?」
そっとヒカリの手が私の頬に伸びる。
いつの間にか泣いていたらしい。
「…レックスは元気かしら」
「ええ、いまだにサルベージするんだ!って張り切ってるものだから、ちょっと困るわね」
「ふふふ、彼らしい気がするわ…一緒にいられる時間、大切にしなさいね」
さぁと風が青々した香りを運んでいく。
こんな場所に、一緒にいたかった。
「ねえ、カグツチ。今の私なら、貴女の記憶をそのままにコアクリスタルに送り返せるわ」
「え?」
ブレイドはコアクリスタルに戻ればその記憶を失う。
だからこそ、前の"私"を残して置きたくて、日記を書くのだ。
「どうする?」
記憶がそのままなら、あの人のことを忘れないで済む。
あの人に花を手向け、あの人のことを覚えている人と思い出話に花を咲かせ、この胸の痛みを癒すことができるかもしれない。
後悔ばかりがつのって今は思いだせない、楽しかった思い出もゆっくり形を取り戻すかもしれない。
だけど。
「…いいえ、その必要はないわ。私はあの人のブレイドとしてこの世界に生まれたのだから」
「そう、ちょっと残念ね」
「え?」
ヒカリが寂しそうに笑う。
「最後に話せてよかったわ」
さわやかな風が吹き抜けていった。
スペルビアもそろそろ、草木が芽吹く季節だ。
あの人の笑う姿が、今はハッキリと目に浮かぶ。
気が付くと私は草原の中に立っていた。
周囲は森に囲まれている。
私のまわりだけがぽっかりと開けて草原になっていた。
遠く、丘になった草原の切れ端の向こうは真っ青な空が見えていて、その中央にぽつりと木が一本木陰を作っていた。
先ほどまで、暗い部屋の中にいたはずなのにどうしてこんな場所にいるのだろう。
私はまわりを見回しながら、ゆっくりと歩みを進めた。
辺りには誰もいない。
ただただ、爽やかな風が吹き抜けて、草木が擦れる音がするだけだ。
草原の中ほどまで歩いて行った時だった。
ふと、木陰の下に、見覚えのある後ろ姿があるのに気が付く。
金色の長い髪と白い衣装が風に揺れている。
私の足音に気が付いたのだろうか、くるりと振り返って、髪がふわりと浮いた。
「…来ちゃったんだ」
振り返った少女は、傍らの木の幹に手を置いて笑った。
どこか悲し気な顔で。
「ヒカリ…久しぶりね」
かつてともに旅した少女。その姿からは想像もつかないほどの力を持った、天の聖杯と呼ばれた伝説のブレイド。
しかし、彼女とは数十年も前に顔をあわせたきりだった。
彼女のドライバーであるレックス、彼女と同じく天の聖杯のホムラとともに新大陸へ冒険へ出るその日、かつての仲間たちと見送ったきりだった。
戻ってきたという知らせも聞いていない。
それなのに、私の目の前に立っている。
いや、私が彼女の目の前に立っていると言った方が正しいのだろうか?
「ねえ、ヒカリ。ここはなんなの?」
「楽園よ…私たちの記憶の中にある方の」
「ここが…」
かつてレックスが見せられた楽園がこれなのか。これを見たら信じない訳にはいかないか。
「でも…どうして私が」
当たり前の疑問が沸き起こる。
天の聖杯にも、天の聖杯の武器にも触れていないのに、どうして私がここにいるのだろう。
「ブレイドはみんな、私たち天の聖杯に記憶を送るんだもの。理論的には私たちの記憶にアクセスすることだって可能よ」
「そういう、ものなのかしら」
そういえば、クラウスという男がそんな話をしていたっけ。
それを思い出したら、嫌なものを見せられたことも思いだしてしまった。
憎悪、怒り、憎しみ、妬み。
そんなものをぶつけられて、ただただ痛かった。
そして思いだしてしまう。嫌な記憶は嫌な記憶を呼び起こすらしい。
私の大切なあの人が苦しむ姿を。どうにもできないつらさを。
傍にいられなかった後悔を。
帝国の宝珠と呼ばれた私は、ブレイドでありながら要人として単独で職務につくこともあった。
一心同体であるあの人が高齢ゆえの病で倒れても、ブレイドである私の身は昔と変わらない。
ブレイドとはそういうものだ。それゆえに、私に職務がまわされた。
全てではない。私が外交に出ているときにあの人が死んでしまえばいろいろ問題もあるから。
それでも、傍にいたくてもいられなかった。
どうしてもっと、傍にいなかったんだろう。
どうしてもっと、わがままを言わなかったんだろう。
後悔ばかりが頭を支配して、あったはずの楽しい思い出は何一つ浮かんでこない。
「…大丈夫?」
そっとヒカリの手が私の頬に伸びる。
いつの間にか泣いていたらしい。
「…レックスは元気かしら」
「ええ、いまだにサルベージするんだ!って張り切ってるものだから、ちょっと困るわね」
「ふふふ、彼らしい気がするわ…一緒にいられる時間、大切にしなさいね」
さぁと風が青々した香りを運んでいく。
こんな場所に、一緒にいたかった。
「ねえ、カグツチ。今の私なら、貴女の記憶をそのままにコアクリスタルに送り返せるわ」
「え?」
ブレイドはコアクリスタルに戻ればその記憶を失う。
だからこそ、前の"私"を残して置きたくて、日記を書くのだ。
「どうする?」
記憶がそのままなら、あの人のことを忘れないで済む。
あの人に花を手向け、あの人のことを覚えている人と思い出話に花を咲かせ、この胸の痛みを癒すことができるかもしれない。
後悔ばかりがつのって今は思いだせない、楽しかった思い出もゆっくり形を取り戻すかもしれない。
だけど。
「…いいえ、その必要はないわ。私はあの人のブレイドとしてこの世界に生まれたのだから」
「そう、ちょっと残念ね」
「え?」
ヒカリが寂しそうに笑う。
「最後に話せてよかったわ」
さわやかな風が吹き抜けていった。
スペルビアもそろそろ、草木が芽吹く季節だ。
あの人の笑う姿が、今はハッキリと目に浮かぶ。
もう一度貴女とともに生きられるのなら、私はなんだってしよう。
もう一度その声を聞き、もう一度その手を取って、もう一度貴女の後ろに立てるのなら、私はなんだってしよう。
だけど、貴女の生は一度きり。
だから、"私"も一度きりでいい。
貴女とともに眠れるのなら、それでいい。
前の私がそうだったように、次の私は、次の誰かのためにあるのだから。
もう一度その声を聞き、もう一度その手を取って、もう一度貴女の後ろに立てるのなら、私はなんだってしよう。
だけど、貴女の生は一度きり。
だから、"私"も一度きりでいい。
貴女とともに眠れるのなら、それでいい。
前の私がそうだったように、次の私は、次の誰かのためにあるのだから。
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